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体外受精・胚移植を受ける方へ

当院では、体外受精・胚移植を中心とした生殖補助医療を行っています。ここでは、皆様の心の準備に役立つように、体外受精・胚移植について説明いたします。

この治療の目的
体外受精・胚移植とは、排卵近くまで発育した卵子を体外に取り出し、精子と接触させ、受精し分割した卵を子宮内に戻す治療のことです。1978年にイギリスで初めて体外受精児が誕生して以来、全世界に急速に普及し、日本でも年間約10000人の赤ちゃんが体外受精により誕生しています。卵管が閉塞している、もしくは機能していない場合や、精子の数や運動率が不十分なために人工授精では妊娠しない場合、また、他の不妊治療(排卵誘発、人工授精など)で妊娠に至らない場合に体外受精を行います。

対象となる方
@ 卵管の通過障害を認める方
A ご主人の精液所見に異常があり、人工授精によっても妊娠しない方
B 抗精子抗体が陽性で、人工授精によっても妊娠しない方
C 原因不明で、他の治療法によっても長期間妊娠しない方

体外受精・胚移植のながれ

採卵前 ・血液型検査 ・感染症検査 梅毒、B型肝炎、C型肝炎、ATLHIV 13,000
      ・夫の感染症検査 梅毒、B型肝炎、C型肝炎、ATLHIV 12,000
      採卵前のスプレキュア処方は 16,000


体外受精・胚移植の実施にあたっては日本産科婦人科学会の体外受精・胚移植の臨床実施に関する見解を遵守し、当院倫理委員会の承認のもとにご夫婦のインフォームド・コンセントをいただいて行います。
1) 採卵する月経周期の
前の周期の高温相の7~8日目からスプレキュアという点鼻薬を1日3回、左右の鼻孔に噴霧します(ロング法)。この薬により、下垂体からの性腺(卵巣)刺激ホルモンの分泌を抑え、勝手に排卵しないようにします。スプレキュアは、採卵する月経周期の1~3日目から開始することもあります(ショート法)
2) 月経周期3~5日目から卵胞刺激ホルモンの筋肉注射(上腕もしくは臀部)を始めます。通常8~10日間、毎日注射することにより、合計6~10個の卵胞発育を目指します。注射は、月〜土曜は当院外来で、日・祝日・夜間は末広町大川産婦人科病院で行います。
3) 卵胞発育を確認するために数日毎に経腟超音波検査を行います。卵胞の数も大きさも最良となったところで黄体化ホルモン(hCG)の注射をします。通常は夜11時30分に末広町大川産婦人科病院3階の病棟で行います。スプレキュアはこの注射の当日朝まで使用して、それ以後は中止してください。
4) 黄体化ホルモンを注射した日の翌々日午前に採卵を行います。採卵の前日夜11時より絶食してください。当日はご主人の精液(採取して1時間以内)をご持参の上、午前9時までに来院してください。来院時、医師または看護師、胚培養士が精液を直接受け取ります。当院での採精をご希望される方は、ご主人も一緒に来院してください。なお、採卵当日は麻酔をしますので、お車を運転されないようお願いいたします。
5) 採卵は静脈麻酔下に行い、できるだけ痛みのないようにします。 
例:
硫アト1/2A iv    ペンタジンー15mg 1A iv  プロポフォール 7−8ml iv  プロポフォ−ル20ml/hr  O2 2 N2O 4
超音波で卵胞を観察しながら腟から穿刺・吸引します。採卵後は腟内にガーゼを挿入しますので、2時間後に診察してガーゼを抜いた後、帰宅できます。この診察時、入院管理が必要と診断される場合もあります。
6) 受精卵の着床を助ける目的で、採卵直後に黄体ホルモン
(プロゲストンデポー125 mg)の筋肉注射を行い、その日の夕食後から2週間以上、朝夕1日2回、黄体ホルモン剤を内服していただきます。( プレマリン2T/日とルトラール4T/日を採卵日の夕方より3日間内服または プラノバール1T/日を3日間内服。 ET後 プレマリン2T/日とルトラール(低用量製剤2mg) 4T/日を胚移植より14日間内服追加 または プラノバール1T/日を14日間内服)

採卵日   プレマリン2 T ルトラール4 T    2 x 朝夕食後 3日分
         メイアクト3 T                3 x 食後 2日分
         ロキソニン1 T セルベックス1 C 屯用(痛いとき)3回分
       内膜うすい エストラダーム テープ4枚追加場合もあります。
胚移植日  プレマリン2 T ルトラール 4 T  2 x 朝夕食後 14日分

             (2週間後更に追加する場合もあります。)
  

7) 採卵当日に卵子と精子を合わせ、翌日午前に受精の確認を行います。受精の有無をお知りになりたい方は採卵翌日の午前10時にお電話をください。
@ 採卵後45時間ほど培養した卵子と良好な状態の精子をシャーレの中で混ぜ合わせます(媒精)。精子の運動率が低いなどの理由で、当日に顕微授精にきりかえるあるいは併用することもあります。その後、卵子を培養液の中に入れて培養器で育てます。A 18時間後に顕微鏡で受精しているかどうかを確認します。受精卵は2日目には4分割、3日目には8分割の胚へと分割しながら育ちます。受精卵が46分割卵(採卵2日目)あるいは3日目に8分割の胚になったら子宮に戻します。)
8) 採卵の2~3日後に受精した卵を最多3個まで子宮内に移植します。指定された移植日の午前9時に来院してください。前日からの絶食は必要ありません。当日は午前7時より排尿しないで来院してください。移植後30分はベッド上で安静にしていただきます。
9) 胚移植した日から2週間後に妊娠の有無を確認します。
なお、当院では、戸籍上の夫婦間でのみ体外受精・胚移植を行います。また、受精卵はご夫婦以外の第3者には譲渡・移植をしません。
                                                          

この治療に伴う危険性と、偶発症発生時の対応
@ 体外受精で生まれる児について
これまでの報告では、体外受精・胚移植は自然妊娠と比べて赤ちゃんに異常が起きる確率に大きな差はないとされていますが、成長後の知能指数や行動異常といった長期予後に関しては、現在も世界中で研究調査中です。培養条件などの体外環境が卵子や精子、胚にどういった傷害を及ぼすかも、現時点では十分に解明されていません。
40歳以上の方の妊娠では、体外受精児に限らず、年齢に伴った妊娠および胎児におけるリスクが増加することが知られています。
A 採卵に伴う危険性
静脈麻酔下に採卵を行います。麻酔薬の副作用によりアレルギー、血圧上昇、呼吸抑制、喘息を起こす可能性があります。その際には抗アレルギー剤や降圧剤等の各種薬剤の投与や酸素投与などを行うことがあります。アレルギー体質、高血圧、喘息などのある方は、必ず事前にお申し出ください。
経腟超音波下に採卵を行う際、血管・腸管・膀胱損傷を起こす可能性があります。特に腹腔内癒着が強い場合には可能性が高くなります。実際に損傷を起こした場合、入院や転院が必要になったり、緊急に開腹手術や腹腔鏡手術を行ったりすることがあります。
B その他のリスクについて
ご希望により3個まで胚移植を行いますが、一般に、体外受精・胚移植での多胎妊娠率は16〜17 %と高率ですので、多胎妊娠の危険性が高い40歳未満は2個以下に、とくに35歳未満で胚移植を初めて受ける方には1個に限らせていただきます。排卵誘発に卵巣が過剰に反応した場合、卵巣過剰刺激症候群や卵巣の茎捻転が起こる可能性があります。また、体外受精・胚移植による妊娠では、自然妊娠に比べて流産率が高いことが報告されています。年齢によってその率は異なりますが、15〜25 %程度で、40歳以上ではやや高くなります。子宮外妊娠の発生率も約5 %

(凍結胚を用いてETを実施したほうが、子宮外妊娠のリスクを避けられるという日本からの報告がferitil.Steril.2011;95:1966に報じられている。

  @     2008年の学会に登録されたデータ−を解析している。

A     凍結した胞胚を解凍して1個胚移植を行ったケースの子宮外妊娠は、10312例中84例(0.81%)であった。

B     新鮮な胞胚を1個胚移植したケースの子宮外妊娠は、1361例中25例(1.8%)であった。

C     顕微授精行なった新鮮な1個胞胚を胚移植したケースの子宮外妊娠は、1352例中19例(1.4%)であった。

D     母体年齢別に観てみると、凍結した1個胞胚を解凍して胚移植を行ったケースの子宮外妊娠率は0.590.97%であった。

すなわち、胞胚を一旦凍結し、それを解凍して肺移植を行ったほうが子宮外妊娠の発生率は減少するという。

この理由は、胚側にあるのではなく、母体側にある、つまり過採卵周期よりも生理的周期に近いホルモン状態で移植できるので、内膜の着床準備状態がよいからではないかと推測される。

本件の詳細は著者の埼玉医大産婦人科石原教授にご照会いただきたい。)

と、自然妊娠の場合と比べてやや高いことが知られています。
C 配偶子操作について
運動性良好な精子を選別した後に受精をさせますが、当日の精子所見が悪く、通常の体外受精で受精が望めないと考えられた場合、顕微授精を行うことがあります(別紙「顕微授精を受ける方へ」についてご説明し、ご同意をいただいた場合にのみ行います)。
D 卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome; OHSS)について
排卵誘発剤の副作用としてOHSSを発症することがあります。採卵個数の多かった方ほど発症しやすくなります。自覚症状としては、卵巣の腫大により腹部膨満、腹痛、嘔気などがあり、重症例では、腹水、胸水が貯留するとともに、血管内脱水により血液が濃縮して血管内で血液が固まりやすくなり、血栓症などを起こす危険性があります。厳重な管理にもかかわらず、入院加療を要するOHSSが発症する可能性があることをご了承ください。排卵誘発によっては、妊娠成立を目指す以上、OHSSを完全に無くすことは不可能とされていますが、当院では、以下のように十分な注意を払っています。
(1) 卵胞刺激ホルモンの投与量をそれぞれの患者さまで個別に調節します。
(2) 卵胞刺激ホルモン投与中は、適時、卵胞発育を超音波で確認します。
(3) OHSSが重症化する恐れがある場合には、黄体化ホルモンの投与を行わず、その周期は体外受精を中止し、採卵もしない場合があります。
(4) OHSSが発症した場合、必要に応じて検査や入院、薬物治療等を行います。

上記あるいはそれ以外の偶発症が起きた場合には最善の処置を行います(なお、その際の医療は通常の保険診療です)。

また、次のような場合には体外受精または胚移植ができないことがありますのでご了承ください。
@ 卵胞が十分に発育しない場合
A OHSSの増悪や腫大した卵巣の茎捻転が起こる可能性が高いと予測される場合
B 十分な精子が採取できない場合
C 採卵ができなかった場合
D 卵が受精しなかった場合

                                                           

余剰胚について
受精卵はその質が良いもの(良好胚)から3個まで胚移植を行いますが、その他の移植しなかった受精卵は当院が責任を持って廃棄いたします。

治療の有効性・成功率
1周期あたりの妊娠率は一般的には20〜35%程度です。この数値は、年齢、採卵回数、採卵個数、精子所見、良好胚の個数などの条件によって変わってきます。

代替可能な治療と、治療を行わなかった場合について
代替可能な治療としては、以下のようなものが考えられます。これらの治療を検討されたい方は、主治医または担当医にご相談ください。
クロミフェンやhMG製剤などによる排卵誘発、タイミング指導や人工授精などがありますが、貴方にとって、これらの治療で妊娠する可能性は体外受精・胚移植に比べると非常に低いと考えられます。
ご希望により、カウンセリングや他医でのセカンドオピニオンを受けることができます。
体外受精・胚移植に対する同意はいつでも撤回でき、その場合も何ら不利益を受けず、今まで通りのご希望の治療をうけることができます。

料金について
体外受精・胚移植は、現在のところ健康保険の対象ではなく、全て自費診療です。料金は当日に全額をお支払いいただきます。

教育・学術研究へのご協力のお願い
生殖補助医療の進歩に貢献するため、患者さまに不利益をもたらさない範囲内で、検査結果(数値、画像、組織標本など)を、教育や学術発表に使用させていただく場合があります。その際には、貴方の個人情報が明らかになることはありません(なお、個人情報が明らかになる可能性がある場合は、別途説明をさせて頂きます)。また、当院は社団法人日本産科婦人科学会の生殖補助医療の実施登録施設であり、毎年、同学会へ治療成績を報告する義務がありますが、その際にも、貴方の個人情報が明らかになることはありません。
これらは医学・医療の発展を目的とするものであるため、ご理解の上、ご協力をお願いいたします。

大川産婦人科・高砂

同 意 書

医療内容:体外受精・胚移植

同意内容

排卵誘発、採卵、胚移植について
別紙「体外受精・胚移植を受ける方へ」参照

偶発合併症について
採卵に関しては万全の注意を払って行いますが、周囲の血管や腸管の損傷が生じ、出血や感染を起こす危険性があります。止血困難で出血多量となった場合や重症の腹膜炎を起こした場合には、開腹手術や輸血を施行せざるを得ないことも稀にあります。
また、極めて稀ですが、麻酔中に心筋梗塞、肺梗塞、脳梗塞、脳出血など生命に関わる重篤な合併症を生じる可能性があります。

説明日 平成   年   月   日

説明医師                  (自署)

私たち夫婦は、体外受精・胚移植について詳細かつ十分な説明を受け、その医療内容を理解しました。また、卵巣過剰刺激症候群、穿刺の際の危険性(血管や腸管の損傷、感染)など治療に伴う副作用についても説明を受け、その上で体外受精・胚移植を希望し、その実施について同意します。
なお、加療中に緊急処置を必要とする事態になった場合、適宜処置されることについても同意します。

平成   年   月   日
大川産婦人科・高砂
院長 森田 哲夫 殿

患者 妻 : 住所                         
(自署)
氏名                        印

患者 夫 : 住所                         
(自署)
氏名                         印